2016/04/11

続・楽譜とは

作曲というプロセス、つまり音楽を楽譜というかたちで残すことは、作曲家の心の表現であるアナログデータを、音符というデジタル情報で記録するということ。つまりその過程には、重大な情報の欠落があるというkとに気づかなければならない。一方、楽譜を見て演奏するということは、デジタルデータを人間の心に響くアナログ情報に変換するということ。したがって楽譜に書かれていないことを如何に再現するかということに、本来もっと時間と努力を払うべきであり、楽譜に書いてあることはあくまでも指標であり、「楽譜どおり演奏する」ことは演奏家として最低限必要なことである。



一つの音符は、いわばひらがなやカタカナ一文字と同じである。かな、つまり音符がいくつか集まって最低限意味のある「単語」になる。単語がいくつかあつまって「文」つまりフレーズとなる。文がいくつかあつまって「文章」つまり楽章なり曲の部分となる。そして文章がいくつか集まってはじめてはじめて「文学作品」となるように、楽章や曲の部分があつまってはじめて交響曲などのひとつの音楽となりうる。

映画や芝居の台本を自分で読めば感動するだろう。これは、自分自身のなかで、文字から想像力を発揮し、自分の心に問いかけているからに他ならない。この読書という技術は小学校から、あるいはもっと幼少のころからの長い年月の間の読書経験の積み重ねによるものである。しかし、台本を他人に読み聞かせる、つまり芝居あるいは映画にするという行為は、そう簡単にできるものではない。例えばあなたが2時間かかる名作映画の台本を読んだとして、じっと聞き入ってくれる聴衆はいるだろうか。あなた自身の感動は聴衆に伝わるかどうか、はなはだ疑問である。言葉という最も身近な道具を使っても、このように言葉そのもので他人の作品を人の心に訴えかけることは難しい。だからそういった技術・才能をもった俳優や俳優を使って映画をつくる映画監督などという商売がなりたつ。

一方、音楽となると、この点において言葉よりさらに難しいことは明白である。楽譜は作曲家の心の中を音程、長さ、強弱、テンポなどの非常に限られたデジタルデータに落とし込んだものだ。それを再度アナログ変換しなければならない。ひらがな一文字単独で意味を持たないのと同様、一つの音符単独では音楽的意味はまったくない。単語となって初めて意味を持つように、いくつかの音符が集まって初めて意味を持つ。そう、意味を持たせなければならない。楽章全体や部分ごとには大抵の人が意味を持たせようとしているだろう。しかし、フレーズひとつ、あるいは音符数個のかたまりとしてはどうであろうか、いわゆる、文、単語、のレベルである。やはりここに意味を持たせることを考えなければ、文章つまり曲とはなりえない。こういった細部を考えるにあたっては、楽譜というデジタルデータをそのまま真に受けては、本質を見落としてしまう。本質は、作曲家の心の中にあったアナログデータである。このデジタル>アナログ変換(DA変換)において、最も陥りやすい罠、つまり注意すべき点をあげておく。

テンポ
Tempo Iあるいはa tempoは本当に元のテンポに戻すべきなのか?rit.accel.などのテンポ変化が示されていない限り、一定のテンポで演奏すべきなのか?

音の長さ
音符の長さは絶対的なものか? 4分音符4つが連なっているとしよう。本当にその4つは同じ長さであるべきか? 3連符と4連符が連続しているとき、本当に4連符を3連符より速い速度で演奏するのか?

強弱
一つの曲、一つの楽章のなかで、ある部分のffとまた別の部分のffは本当に同じ強さであるべきなのか? fffの間、またはmpmfの間はないのか? クレッシェンドやfなどの強弱記号が書かれていないところは、一定の音量で演奏すべきなのか?

表情記号
くさび型スタカートと点のスタカートの違いに一定の法則はあるか? テヌートとアクセントは本当にいつも違うのか? 何も示されていない音符は本当にマルカートであってスタカートやテヌート、アクセントをつけるべきでないのか? スラーの切れ目は本当に切るのか? スラーが書かれていないから本当にレガートに演奏しないのか?
これらは、楽譜を人間の心に通じる音楽にするにあたって、注意し、常に考えなければならない重要な点のほんの一例である。しつこいようだが、楽譜に書くことのできる情報は、音長、テンポ、強弱、表情など、どの次元においても、限られた数種類しかないデジタル情報なのである。欠落した元々のアナログ情報を復元するのが、演奏家としての使命である。その過程において、楽譜はあくまでも手がかりであって、それがすべてではない。作曲家が何をどう表現したかったのか、聴衆はどういう音楽を期待しているのか、その橋渡しをするのが演奏家の使命である。

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