2011/09/16

チューナーは両刃の剣

技術が進歩し、いろいろと便利な道具が手に入る次代、オーケストラの世界もまた例外ではない。その一つにチューナーに接続するピックアップがある。管楽器だろうが弦楽器だろうが、自分の楽器の適当なところにゴムのクリップを留めると、合奏の最中でも自分の音だけをチューナーが拾い、自分の音程を確認できるというすぐれもの。いろいろなオーケストラで最近は、合奏練習中にこれを常に使っている人を良く見かける(管楽器に多い)。確かに便利なのだが、私はこの使用方法には警鐘を鳴らしたい。絶対にやってはいけないことの一つと思う。

その理由はいろいろある。まず第一に、基準となる音程は常に変化していること。オーケストラでのハーモニーは純正調が基本である。したがって基本的な主和音、属和音、下属和音であっても、チューナーのど真ん中に合わせている様では美しいハーモニーは得られない。ましてや、古典派以降の音楽をするにあたっては、純正調の限界を超える複雑な和声が取り入れられているのだから、基準は常に変化している。基本的にはメロディーが綺麗につながるように、内声部はその音程を微調整しなくてはならない。つまり記譜上同じ音程でも、実際に演奏すべき音程は場所によって異なる。

第二に、アマチュアのレベルではさらに難しく、基準となる音程は、お互いに音程が悪い者同士で力比べをしているようなもので、大抵は音量の大きな楽器、音程が上ずっている楽器が基準となってしまい、多くの人がそこへ無意識のうちに合わせてゆく。だから自分だけチューナーを基準に「自分が正しい」と主張するのは、建設的でなく全く意味がない。その主張が効力を発揮するのは、唯一管楽器セクション全体が弦楽器セクションとずれてきた場合。弦楽器は常に開放弦という基準があるから、そこへあわせるのは正当な方法である。しかし、この場合もチューナーを基準にするのではなく、あくまでも耳で聞いて自分の音を弦楽器に合わせるべきである。そして自分が正しいと思っている音程で他の管楽器をリードしていくべきである。

最後に、こういうチューナーの使い方をしていると、いつまでたっても自分の耳で正しい音程をとることができない。「この人、いい音程で吹いているな」と思って、チューナー無しでデュエットなどをしてみると、自分自身で音程をとれていないことがすぐにわかる。私はこういった例を山ほど見てきた。

では、どうやって音感を訓練するか。チューナーは使い方さえ間違わなければ非常に有効な道具である。私が勧めるのは以下の練習方法。まずドの音をチューナーで合わせ、覚える。そこからチューナーを見ずに、スケールで一オクターブ上がり、そこでチューナーでドを確認する。やってみると意外と簡単ではないことがわかるはずだ。まず、これがきっちりとできなければならない。これができたら、一旦チューナーから離れて、ピアノを使う。ピアノのペダルを踏んでドを弾き、オクターブのスケールを自分の楽器でやってみる。ミ、ソ、ドがピアノのドにきちんとハモるかどうか、チェックする。同様にV7の和音、IVの和音もピアノで根音を鳴らしながらやってみる。ただし、知識として、この場合のIの和音以外の他の和音は、いわゆる純正調ではないことは知っておくべきである。なぜなら基準となるピアノがすでに12平均律でチューニングされているからである。これができるようになったなら、またチューナーを使ってみる。今度は、練習曲でもなんでもいいから、曲を吹きながら、時々チューナーに目をやる。自分の思っている音程が間違っていないかどうかを確認するのである。しょっちゅうチューナーを見て、いちいち合わせるのではなく、あくまでも、自分の耳で音程をとり、それがずれてきていないかどうか、時々チューナーで確認するのみに留めておくべきである。

最後に、私が音感を鍛えた方法をここに書いておく。私はエレクトーンで育ち、管楽器を、中程度のブラスバンド、オーケストラで吹いてきた。だから音感はあまり良くなかった。これを克服できたのは、弦楽器を徹底的に練習したからである。これは指揮者として、様々な弓使いをマスターすることが主目的であったが、音感を鍛えるのにも非常に有効である。単純なスケール練習だけで、スケールが開放弦に来たときに、自分の音程のずれを嫌というほど思い知らされた。これがきれいに弾けるようになる頃には、音感が身についていた。少しずつできるようになったというよりは、あるとき突然音程の感覚のコツを覚えた記憶がある。

合奏中も常にチューナーに頼っていては、この「突然の気づき」のような瞬間は決して訪れない。なぜなら、ハーモニーは正しくないか、正しいかという白か黒かの問題で、どの程度正しい音程からずれていて、どの程度まで正しくできるかという問題ではないからである。皆で作るハーモニーも、「徐々に良くしていこう」ではダメ。本当のいい響きを実感できなければ、いつまでたっても正しいハーモニーは生まれてこない。耳を使い完璧をめざそう。

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